数学ガール

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

とても、とても面白かったです。実は買うつもりはなかったのだけれど、書店で目にはいってしまい、悩んだあげく購入し読んでしまいました。予想以上にすばらしかったです。この物語に出会えたことに感謝しつつ、感想など。

数式と物語が確実に響き合っているのが感じられました。以前web版を読んだことがあって、部分的に内容は知っていたのですが(http://d.hatena.ne.jp/kwg/20060402/p2)、製本されている版では全体のストーリーの中で数式と物語が絡み合ってるのがよりはっきりと感じられます。物語だけを追うと、それはそれでまぁ読めるけど大した展開があるわけじゃない(そんな都合のいい女の子がおるかい、とも突っ込みたくなる:-)、数学/数式の展開だけ見ると、まぁどこかのテキストにあることをきちんと書き下しているよね、ということになるのかもしれません。でも、この二つが重奏的に配置されることによって、数式による論理展開がどんな感情/動機の元になされるのか、その結果どんな感情が生まれ得るのか(「僕たちにメッセージを送っている書き手が数式の向こう側にいるんだよ(p.33)」)、ということが見事に描写されています。あとがきの冒頭に、「数学へのあこがれーそれは、男の子が女の子に対して感じる気持ちと、どこか似ている気がします」という一文がありますが、まさしくこの「どこか似ている」部分が感じとれました。数学へは感情豊かに接することができるのだ、ということがこれ以外の方法ではなし得なかったであろうスタイルで描かれています。もし、今から手に取る方がいらっしゃればはぜひ、ゆっくり時間をかけて、味わってみてください。数式に挫折せず、「どうしてもわからなかったら、本のその場所に印をつけておく。そして先に進む。しばらく先にいったら、印をつけたところに戻ってきてもう一度読む。...(中略)... そして何度も戻ってくる (.p37)」という「僕」のスタイルを踏襲しましょう。

蛇足: 著者の結城浩(id:hyuki , http://www.hyuki.com/)さんは主に技術的な内容をわかりやすい文章で説明する本を何冊も書いていらっしゃいますが、その文章能力が(たぶん)はじめて物語へと適用されました。その結果、平易な言葉を重ねることにより数式が説明され、感情の揺れが描写され、物語が進行していくのですが、この文体がなんだか、村上春樹さんを彷彿とさせる文体に仕上がっています。村上春樹さんの小説は描写には数学的なものを感じる、というようなことが指摘されていましたが(数学で考える)、もしかすると、そのあたりが「数学ガール」との接点なのかもしれません。

蛇足2: ストーリーを絡めて理論を語る、というスタイルでは、デッドライン不思議宇宙のトムキンスザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何かあたりが共通しているでしょうか。